ルクセンブルクでビジネスを始めたい方に朗報です。今回は、簡易有限責任会社、略称:SARL-Sについてわかりやすくご紹介します。
この形態は、ごく僅かな初期投資(1€~)で企業をスタートさせることができます。これは、多くの起業家にとって魅力的な選択肢となっています。 この記事は、私がこのシステムを利用し、起業した時の経験を元に書いています。
SARL-Sの設立
ルクセンブルクのSARL-Sは、起業で直面する多くの課題を軽減しています。事業展開をスムーズに進めるための環境を提供します。このセクションでは、SARL-S設立の具体的なステップとその利点について、詳しく解説します。
初期投資はたった1ユーロから!
SARL-S設立に必要な資本金はわずか1€、資金面での負担は大きく軽減されます。
SARL-S設立時の資本金は、1€から12,000€となっています。
誰でも株主・取締役に!
株主は最低一人が必要ですが、特にルクセンブルク国民である必要はありません。
また、小規模企業では、株主兼取締役を一人で務めることもよくあります。これにより、運営の柔軟性が増し、手軽にビジネスを管理することができます。
SARL-Sの株式保有には特定の規制が存在します。通常、個人が複数のSARL-Sに株式を持つことは許されていません。ですが、他の株主の死去による株式の相続がこのルールの例外です。個人がSARL-Sの株式を持つ一方で、異なる法的形態を持つ他の企業の株式を保有することは許可されています。
また、SARL-Sは株主の数に関しても柔軟です。最少1名から最多100名までの株主を擁することが可能です。これは従来のSARLと同様の条件であり、多様な事業規模に対応できる構造です。
簡単な設立手続き
会社設立は、公証人が不要で私的証書で設立できるのも利点の一つです。 そして、期間限定でも無期限でも成立します。事業所はルクセンブルク内に設ける必要がありますが、これも手続きを進める上で重要なポイントです。
「期間限定」設立時にその運営が特定の期間に限定されることを意味します。つまり、事前に定められた期間が経過後は、自動的に解散またはその活動を終了します。この選択で企業はプロジェクトベースや、一時的な事業を行うことが可能となります。 これは、一定期間で完結する事業に適しています。
「無期限で設立」特定の期間の終了を前提とせずに、継続的に運営が行われます。こちらは一般的な商業会社の形態で、事業の目的が存続する限り運営が続けられます。
SAL-Sの必要条件
簡易有限責任会社(SAL-S)を設立できるのは?
SARL-Sの設立は、特定の業種に従事する起業家向けに特化されています。
職人、商人、製造業者、及び一部の自由業従事者がこの企業形態で会社を設立できます。また、設立可能なのは「自然人」つまり実際の個人であれば誰でも設立は可能ですが、一人が設立できるSARL-Sは1社のみに限られます。
この制限により、特定の専門分野を持つ個人が効率的に事業を運営できるように設計されています。
カテゴリー | 詳細 |
職人(Artisans) | 手工芸品や建設、修理など、特定の技術を要する職業を指します。これには、例えば家具職人や電気工事士などが含まれます。 |
商人(Merchants) | 商品の購入と販売を行う事業者を指し、小売業者や卸売業者などがこれに該当します。 |
製造業者(Manufacturers) | 物理的な製品の製造に関わる業者を意味します。これには、食品加工から機械製造まで幅広い活動が含まれる可能性があります。 |
特定の自由業従事者 | 通常、専門的な資格や訓練を必要とする職業、例えば弁護士、医師、建築家などが含まれます。ただし、ルクセンブルクでどの職業が含まれるかは具体的な法規を参照してください。 |
事業所許可の申請
起業時、経済省から事業許可を取得する必要があります。さらに起業るには、ルクセンブルク商業登記所での会社登記、合同社会保障センターへの登録、税務署への登録が必要です。これらの手続きを完了させることで、ルクセンブルクでの事業活動が可能となります。
登記の必要性
ルクセンブルクの商業登記簿(RCS)への登記は、SARL-S設立の基本条件です。この登記過程で、企業名、法的形態、本社住所、事業の目的、株式資本の額などの基本情報の提供が求められます。
株主情報の開示
株主の氏名、住所、保有株式数、必要な営業許可情報を開示することも義務付けられています。これらの情報に変更があった場合は、商業登記簿にその更新を提出し、ルクセンブルクの官報(RESA)で公表する必要があります。
財務報告の義務
財務諸表(バランスシート、詳細な損益計算書、経営報告書)は、会計年度終了から7ヶ月以内にRCSに提出する必要があります。
会社の規模に応じて、簡略化されたバランスシートの提出が許可されることもあります。
SARL-S(簡易有限責任会社)の税制
SARL-Sの設立と運営に伴うさまざまな税金と手数料について詳しく解説します。
登録税
登録時に、Registration Duties, Estates and VAT Authorityに75ユーロの固定登録料を支払います。この初期費用は、企業の公式な登録を完了させるために不可欠です。
固定資産税
固定資産税は、資産の種類と位置に基づいて設定され、税率は0.7%から1%の間で変動します。この税金は、対象となる建物が投資された純資産の一部として扱われる場合に、事業利益から控除が可能です。
資産の条件によって税率が異なるため、すべての企業や個人が同じように支払うわけではありません。特に、建物や土地などの不動産を所有している場合にこの税金が課されます。ですから、不動産に投資する会社や不動産を事業資産として持つ企業、個人が主な対象となります。
事業税
SARL-Sが国際的に事業展開している場合、その全ての収益に対して24.94%の税率で事業税が計算されます。
この税率は、会社の総所得に対して一律に適用されます。事業税は会社の利益に対する直接的な税金となります。
純財産税
毎年1月1日には、最低535€の純財産税が必要となります。この税率は、ユニットバリューが5億ユーロ以下である場合0.5%となります。
総資産から総負債を差し引いた金額が純資産の価値です。数式で表すと、純資産 = 総資産 − 総負債。
純資産がゼロまたは非常に少ない場合でも、最低限の税金の支払いが要求されます。
つまり、会社を維持している以上、毎年535€の純財産税が発生します。
法人所得税
課税所得 | 税率 |
175,000ユーロ以下 | 15% |
200,000ユーロ以上 | 17% |
法人所得税が発生しないケース
- その年に損失を出した
- 収益が費用によって完全に相殺
- 利益がゼロまたはマイナス
消費税(VAT)
消費税は、税抜き年間売上が112,000€以下の場合、年に1回の申告が必要です。112,000€から620,000€の売上の場合は四半期ごとに申告です。 620,000ユーロを超える売上がある場合は毎月の申告が必要とされます。
それでは次に消費税非適用についてお話していきますね。
VAT非適用の選択
VAT(付加価値税)の免除や非適用は、特定の業種や事業規模で異なる場合があります。例えば、建築家のように主にサービスを提供し、VATを支払う購入が少ない業種では、VATを選ばない選択が可能です。以下は、そのような場合の対処方法です。
- 小規模事業者の免税枠の活用:
- 年間売上が特定の閾値以下の小規模事業者はVATの申告免除を選択できます。この免除を利用することで、事業主はVATを申告し、支払う必要がなくなります。
- 年間売上が特定の閾値以下の小規模事業者はVATの申告免除を選択できます。この免除を利用することで、事業主はVATを申告し、支払う必要がなくなります。
- VAT免除の申請:
- 特定の専門サービス、特に教育や医療、文化活動、建築家などが対象となることが多いです。具体的な免除条件や手続きは税務局に確認してください。
- 特定の専門サービス、特に教育や医療、文化活動、建築家などが対象となることが多いです。具体的な免除条件や手続きは税務局に確認してください。
- 免税対象サービスの認定:
- サービスが公共の利益に資する場合や、文化的価値があるプロジェクトに関わる場合など、特定の条件下ではVATの免税が適用されることがあります
実務上の注意点
- 顧客への明確な説明:
- VATが免除される場合でも、その事実を明確に顧客に伝え、誤解が生じないようにすること。
- 内部管理の強化:
- VATの申告が必要ない場合でも、購入記録や売上記録は正確に保管し、必要に応じて税務調査に備える体制を整えることが求められます。
VAT非適用時の正しい申請方法、手続きに関しましては、管轄の税務署へお問合せ下さい。とても親切に教えてくれます。
その他の義務と費用
商工会議所の年会費
年会費は、会社の規模や業種によって異なります。SAL-Sの場合は、比較的低額で、100€以下だったと思います。これも業種によって異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
SARL-Sでは、従業員の総給与の約25%が社会保険料として課されます。これには従業員側と雇用主側の負担が含まれ、安定した労働環境を提供します。
社会保険料
SARL-Sでは、従業員の総給与の約25%が社会保険料として課されます。これには従業員側と雇用主側の負担が含まれ、安定した労働環境を提供します。
その他の税金
市民税や富裕税など、様々な税金が課されますが、これらもビジネスの規模や業種に応じて適切に管理することが求められます。
ルクセンブルクのSARL-Sに関連する義務と規制について説明します。
私の経験談
私がSARL-Sを閉鎖したのは、2020年の出来事が収益に深刻な打撃を与えたからです。その時点での毎年の純財産税と商工会議所の年会費が、徐々に重荷となっていきました。当時は他の会社で働いており、その収入から税金を支払っていましたが、会社を辞めた後の財政状況を考えると、SARL-Sの運営を続けるのは難しいと判断しました。
1ユーロから始められる企業設立は、確かに魅力的なコンセプトですが、事業がうまく行っているときでも、未来は予測不可能です。
この経験を通じて、かつて先輩に言われた「起業する前に、少なくとも3年間は無収入でも生活できるだけの資金を蓄えておくべきだ」というアドバイスが、今ではずっと心に響いています。
まとめ
この記事では、ルクセンブルクで簡易有限責任会社(SARL-S)を設立する方法、その必要条件、税制、そして財務報告の義務について詳しく解説しました。SARL-Sは初期投資が1ユーロからと非常に低く設定されており、誰でも簡単に株主や取締役になれるため、特に起業家や小規模事業者にとって魅力的な選択肢です。また、SARL-Sには様々な税金が課せられる一方で、広範な二重課税防止条約の恩恵を受けることが可能です。事業所許可の申請や財務報告もSARL-Sの運営において欠かせない要素であり、これらの規制を遵守することでルクセンブルクでの事業がスムーズに進むでしょう。